連絡が取れず、施錠された自宅を開錠して亡くなっているのが発見されるという事案が増えています。この開錠に要した費用が、相続税の課税価格の計算上、葬式費用として控除できるかを、根拠条文・通達と当てはめの考え方から整理します。
同居していない家族と連絡が取れなくなり、安否を確認するために、警察や鍵業者に依頼して施錠された自宅を開錠してもらったところ、すでに亡くなっているのが発見されました。このとき鍵業者に支払った開錠費用などは、相続税の課税価格の計算上、葬式費用として控除することができるでしょうか。
相続人または包括受遺者が被相続人に係る葬式費用を負担した場合、その金額を相続財産の価額から控除することができます(相続税法第13条第1項第2号)。葬式費用は厳密には被相続人の生前の債務ではありませんが、人の死亡に伴い社会通念上当然に生じる費用として、政策的に控除が認められているものと考えられています。
控除できる葬式費用の範囲は、相続税法基本通達13-4が次のように定めています。
一方、香典返戻費用、墓碑・墓地の買入費や墓地の借入料、法会(初七日・四十九日等)に要する費用、医学上または裁判上の特別の処置に要した費用(遺体の解剖費用等)は、葬式費用に含まれないとされています(相続税法基本通達13-5)。
開錠費用は、上記のいずれの号にも明文では掲げられていないため、通達の文言への当てはめ(解釈)が必要になります。考え方としては、おもに次の二つがあり得ます。
施錠された自宅を開錠しなければ、遺体の発見も、その後の搬送・葬送も始めることができません。この点に着目すると、開錠費用は葬送の前提として通常生じる出費と評価でき、「葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの」(基本通達13-4(3))に当たると考える余地があります。後述するように、死亡診断書(死体検案書)の作成費用が葬式費用として控除されている実務との整合性も、この理解を後押しします。
連絡が取れず、生死や所在を確認するために施錠された室内へ立ち入る必要があったという点に着目すると、開錠費用は遺体に到達するために要した費用という性格を持ち、「死体の捜索に要した費用」(基本通達13-4(4))の趣旨に近いとみることもできます。所在自体は自宅とほぼ特定されているため、文言の正面からの該当には議論の余地がありますが、通達の趣旨(遺体に到達するために要した費用の救済)には近接します。
このように、開錠が遺体の発見・確認・搬送に不可欠であった場合には、葬式費用として控除できる余地があると考えられます。一方、開錠が遺品整理・財産調査・賃貸物件の明渡しなど、葬送と切り離された目的でなされた場合には、葬送との直接の関連性が弱まり、葬式費用への該当は難しくなる可能性があります。当てはめは個別の事実関係によって変わる点に留意が必要です。
仮に葬式費用に該当しないと整理される場合でも、開錠費用を債務控除(相続税法第13条第1項第1号)の対象とすることは困難と考えられます。開錠費用は被相続人の生前の債務ではなく、死亡後に相続人が負担した費用であり、「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」には当たらないためです。
このような事案では、死亡診断書ではなく死体検案書が作成されるのが一般的です。検案書の作成費用は葬式費用として控除できると実務上取り扱われていますが、これは国税庁の通達やタックスアンサーに明文があるわけではなく、火葬・埋葬に不可欠な書類であることから実務上認められているものと考えられます(相続税法基本通達13-4(1)または(3))。遺体の搬送費用も葬式費用に含めて差し支えないと考えられます(同(1)(4))。
控除を行う場合には、鍵業者の請求書・領収書、警察への通報の経緯や発見時の状況がわかる資料を保存し、相続税申告書第13表(債務及び葬式費用の明細書)に「葬送に至るための開錠費用」である旨を記載して、葬送との関連性を説明できるようにしておくことが望ましいと考えられます。
葬式費用の控除が認められるのは、居住無制限納税義務者・非居住無制限納税義務者等です。制限納税義務者については、控除できる債務等の範囲がその取得財産に係る公租公課等に限定されており(相続税法第13条第2項)、葬式費用はこれに含まれないため、控除は認められない点に留意が必要です。
発見までに時間が経過した場合に生じる特殊清掃・原状回復費用は、開錠費用とは別の論点です。これらは原則として葬式費用にも債務控除にも該当しないと整理されることが多い点にも留意が必要です。
主な根拠